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。○水月の小唄○。
since:2006.01.01
助けたいと願う気持ち
 悪あがき、てーのは嫌いなんだ。
 だが、悪あがきもしないで終わらせるのはもっと嫌いだ。
 自分で始めたことにしろ、勝手に始まった人生にしろ、自分の持てる力を、持っているかもしれない力を、試さないで終わらせるのはなんかおかしくねーか。なんか違わねーか。
 どうせいつかは死んじまうんだ。だったら思いっきり自分のやりたいことをする。他人がどうとか気にするなよ。要はさ、自分がそいつに好かれたいか、嫌われたいか、どうでもいいかだ。
 たまに誰にでも優しく親切に、とかいう馬鹿なカモもいるが、あれはあれでみんなに好かれたい、嫌われたくないと思う自己防衛からくる行動だからやめろとも言えんし、とても貴重なカモに忠告など馬鹿馬鹿しい。
 馬鹿馬鹿しいんだ。
 なのに何故だ。
 何故俺様は忠告なんてしちまったんだ。
 手と手を取り合って、ってあのときは俺様が一方的に引きずって行ったんだが、逃亡とかありえねえ。
 さらにさらに、なんでこいつを庇っちまったんだ。いや、こいつはホント何も悪くねえんだが。
「ごめんなさい、私のせいで」
「うるせえ、消えろ!」
「で、でも……」
「あのな……ここにお前がずっといると、俺様が庇った意味なくなるだろうが……さっさと消えろ! 俺様はてめーの面なんぞ見たかねーんだよ!」
 誰だって自分の泣き顔なんぞ見たかない。
 俺様は白髪赤眼。肌は浅黒く、引き締まった体のいたるところに傷跡がある。左目に眼帯なんぞして、いかにも悪者を語っている。
 こいつは金髪碧眼、青白く透き通るような肌、筋肉があまり付いていない弱弱しい体。身長も俺様より頭一つ低い。なによりこいつは女だ。
 なのに何故か、こいつと俺様の顔は同じだった。
 瓜二つ。
 眼帯をする前の俺様とまったく同じ顔。
 正直気持ち悪い。
 勿論生き別れの妹なんつー設定はありえない。本当の妹はとっくの昔に死んじまってる。俺様の腕の中で冷たくなっていったのを、この腕はその重さまでまだ覚えている。まぁ、遠い、それもかなり遠い親戚ならありえるかもしれないが。
 後もう一つ、俺様とこいつの違いをあげるとすれば、今の状況だろう。
 檻の中と外。決定的だ。
 罪人と善良な一般市民。
 加害者と被害者。
 なのにこいつは俺様の為に泣いてやがる。なんつーおかしな構図だよ。
「なー看守。こいつをどっかにやってくれよ。気持ち悪くってしかたねーよ。分かるだろ? この気持ち。てめーと同じ面が泣いてやがる。何? これって何かの嫌がらせか? はいはい、悪うございました。騙してごめんなさい。乱暴してごめんなさい。綺麗な顔を傷つけてごめんない……って、俺様と同じ顔ってーことは俺様も綺麗てか! あ、はいはい、ごめんなさい。反省してます。許してください。これだけ謝ったんだから良いよな。俺明日には処刑されちまうんだし。なんだよ、この精神攻撃。……って、そこで水量増すのか!? いや、ホント、マジに頼みますよ。消えてください。……消えろ、っつってんだろー!」
 両手を拘束している鎖が千切れんばかりに暴れだすと、さすがにヤバいと思ったのか、看守があいつを連れて行った。
 普通の牢屋なら良かったんだが、ただいま明日の処刑まで晒され中。
 それほど広くない街の広場に簡易に設置された檻――と言っても普通の物理攻撃じゃビクともしないし、魔法対策も万全――の中。上から垂らされた鎖で両手を拘束され、飲まず食わずで三日間。それでも元気な俺様を周りが怪しみだしたというのに、あいつは相変わらず。
 俺様だって腹は減る。だが、食べなくても数日は生きていられるのも事実。
「しっかし、酒飲みてー。肉食べてー。俺様の人生の楽しみをなんだと思ってやがるんだよ。飲んで食べてでなんぼだろうがよー。まぁ他の快楽もないとは言わねえが」
 空を見上げると太陽はまだ上りきっていなかった。
 捕まったのは確か新月の夜。
 同じ顔のあいつが気に食わなくて、ちょっかいかけたのが始まりだ。
 あいつがキャッチセールスで連れて行かれそうになったところを「もしや生き別れの妹じゃないか」と一芝居打って助け、恐縮されながら兄妹説を否定され、その姿があまりにも哀れすぎて同じ顔ということもあり、なんか同情してしまい「騙されやすいから気をつけろ」と細かく忠告し、何やってるんだと我に返り、当初の目的である隣町に行けば二十五ゴールドで買えるブレスレットを「幸せのブレスレット! 本来ならば四百するものだが、どこか他人とも思えないし、ここは百二十五で譲り渡そう」と騙り、交渉が成立したところに、通りかかったあいつの友人にあいつが嬉しそうに自慢し、その友人というのが街の警吏隊に所属していたりして、勿論子供でも引っかからない詐欺は見破られ、警吏隊総動員で鬼ごっこを展開し、夜になり、隠れていた場所に何故かあいつが現れ、「あなたが優しい人だって、私分かってますから」とか言い出して、囮になるからその隙にと言われ、子供だって引っかからない囮作戦を勝手に行い、勝手に捕まり、「犯罪者に協力するとは何事だ」「お前がやったことは罪なんだぞ」と同じ顔のあいつが説教されて項垂れているもんだから情けなくなり、警吏隊の建物を爆破し、混乱の中あいつを助け、逃げて、逃げる途中転びやがって、その隙に囲まれ、仕方ないからあいつの首にナイフを添えて「おらおら、これ以上近寄るとこいつの首が大変なことになっちまうぜ! うへへへへ」と三流悪役の台詞を吐いていたら、あの馬鹿、パニックを起こしやがって、暴れるものだから慌ててナイフを引っ込めたが間に合わず、少し頬に傷が出来、その血を見て卒倒したあいつを受け止め、身動きできなくなった俺様は何故か同情の目を向けられつつ捕まった。あいつは俺様に脅されて仕方なく、という理由をあいつが気絶している隙に優しい俺様の舌は意思と関係なく弁解していた。
 こう振り返ってみると、馬鹿は俺様のような気がする。
 なんてことだ、俺様は見事にあいつに振り回されてるじゃねえか。
 詐欺、公共物の破壊、それに伴い建物の下敷きになったことにより無差別殺人に傷害、脅迫、あと公務執行妨害も付くか。
 この素晴らしい罪状で、俺様には裁判もなく死刑が言い渡された。
 なんという間抜け。
 罪なんてものは、俺様ってばもっと大それたことをした過去があるから、この程度大したことはない。
 あんな大それたことした俺様が、目覚めて数日で人間に捕まっている。力が戻っていないからといって、間抜けすぎる。なんと、なんと――
「情けねえ」
「ホント、なんと情けない光景ですか」
 項垂れていた顔をあげると、西日が目に沁みた。
 逢う魔が時。
 素晴らしい演出だ。
 逆光でシルエットになって格好が良い。きっと狙ったに違いない。
「これではなんで僕が危険を犯してまで貴方の封印を解いたのですか。おかしいでしょう。貴方にはちゃんと魔王としてもう一度世界を恐怖の底に陥れて貰わないといけないんですよ。分かってます?」
「全くもって面目ない、マスター」
「前回は妹さんの死という絶望がありましたが、今回も何かしらないとやる気がおきませんか? 世界を憎めないと駄目ですか?」
「いや、今回はマスター、貴方に必要とされている。そのことだけで十分ですよ。今はただ……そう、時差ボケ」
「まぁ、いいでしょう。これでも食べて力を付けなさい。助けるのはこれ一度きりです」
 日が完全に沈み、瞬きをした一瞬で人影も消えた。そして気が付けば自由になっている両手と、目の前に倒れている同じ顔をしたあいつ。
「なんでこいつが檻の中で、しかも倒れてんだよ」
 抱き起こそうと手を伸ばしたところで、マスターの言葉を思い出した。「これでも食べて」の「これでも」とは、こいつのことか。
「悪趣味すぎやしませんかね」
 とりあえず抱き寄せ、警戒心零な顔を拝んだ。
 何故か泣けてきた。
「結局俺様には誰も助けることなんぞ出来ないってわけか……っ!」



 ある日、一つの街が消えたのを始めに、世界に魔物が溢れた。
 人間たちは魔王の存在を知るとすぐさま勇者をたてた。
 いくつもの犠牲の果てに、勇者は隻眼の魔王を打ち滅ぼした。
 魔王は隻眼を隠すように仮面を被っていたが、勇者はそれを最後の情けとしてとることはしなかった。
 魔王の城には美しい姫が眠っていた。
 どこの姫だか知らないが、ずっと眠っていたらしい。
 魔王の体が砂に変わるのと同時に起きた姫は、泣きながら勇者に言った。
 優しくない人など世の中にいない、と。
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